私たちに残された作業は, 仮説 A と仮説 B'' の検証です. まずは 仮説 B'' に取り組みます.
割り算の余りに関して, 有理整数の場合に類似した, 次の命題が成り立ちます. 仮説 B'' の証明において, 中心的な役割を果たす命題です.
主張している内容は,
ということです.
以下, この命題の証明について述べます. 証明のアイディアは幾何学的なものであるので, まずは分かりやすいように, 幾何学的な説明を行います. 厳密な証明は, 仮説 B'' の導出後に述べたいと思います.
複素整数(より一般に複素数)は座標平面上の点, あるいは座標平面上のベクトルと見做せます. 複素整数 \[ z = x + i \, y \] を座標 \( (x,y) \) をもった点, あるいはベクトル \( (x,y) \) と見るわけです. ベクトルと見るときには, \[ i \, z = -y + i \, x \] は \( z \) に直交するベクトルです(内積が 0 になるからです).
2 つのベクトル
で作られる格子を考えます. すなわち, \[ x \, \beta + y \, \left(i \, \beta \right) = \left(x + i \, y \right) \, \beta \quad \left( x,\, y \text{ は整数} \right) \] で与えられる点の全体を考えます. これらは \( \beta \) の倍数全体となっています.
各格子点の周りに一辺が
の正方形を作り, その内部(周を含む)をその格子点の "縄張り" とします.
これらの縄張りは平面全体を覆い尽くすので, 複素整数 \( \alpha \) はある格子点の縄張りに属していなければなりません.
複素整数 \( \alpha \) が格子点 \[ \kappa \, \beta \quad \left(\text{\( \kappa \) は複素整数} \right) \] の縄張りに入っているとします.
このとき, \[ \rho := \alpha - \kappa \, \beta \] に対して, \[ \left| \, \rho \, \right| \, < \, \left| \, \beta \, \right|, \] すなわち, \[ N \left(\rho \right) \, < \, N \left(\beta \right) \] が成り立つので(ノルムは距離の 2 乗です), \[ \alpha = \kappa \, \beta + \rho, \quad N \left(\rho \right) < N \left(\beta \right). \] これが求める結論でした.