平面の非自明な等角変換が, 立体射影を通して球面の合同変換から得られる.
その最も簡単な例を与えるのが, XY平面に関する球面の対称変換 P P' です.
得られる等角変換がどのようなものなのか, 調べてみましょう.
私たちが知りたいのは点 Q と点 Q' の関係です. 図中の全ての点が同一平面内にあるので, 断面図を描いた方が分り易いでしょう.
二つの三角形 ISQ' と
IQN に着目します.
これらは相似な三角形なので, 比例式
\[ \mathrm{IQ'} \,\colon\, \mathrm{IN} = \mathrm{IS} \,\colon\, \mathrm{IQ} \]
が成り立ちます. 通常の等式に書き換えると,
\begin{equation} \mathrm{IQ} \cdot \mathrm{IQ'} = r^{2} \tag{#} \end{equation}
です.
この等式は対応 Q Q' を完全に規定しています.
私たちは次の結論に辿り着きました.
「式(#)で定義される変換は等角性をもつ.」
単純かつ美しい主張です.
そして, ここは私たちが目指してきた場所でもあります.
私たちの求めるもの”反転”とは, 式(#)で定義される変換に他なりません.
中心 I, 半径 r の円 I があるとする. 点 Q ≠ I に対して, 次の 1 と 2 で点 Q' を定義する.
- 点 Q' は半直線 IQ上にある.
- IQ・IQ' = r
.
反転は等角性のみならず, 円円対応もみたします. 前回の記事を読まれた方には, その理由は明らかでしょう. (等角性が成り立つのと全く同じ理由です.)
反転は次の2性質をもつ.
- (円円対応) 広義の円(円または直線)を広義の円に写す.
- (等角性) 2曲線のなす角を保存する.
下の図は, 反転が格子を歪めている様子です. 円円対応と等角性が見てとれます.
(反転円の中心はそれぞれの画像の中心にあります.)
私たちは立体射影の世界に足を踏み入れ, 今や目の前には新たな風景, 等角性という主題が広がっています. 私たちの好奇心はこの世界の探索を欲していますが, それは私たちの目的ではありません. 必要な道具は手に入れました. 目的地, アポロニアン・ガスケットへと向かいましょう.