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複素整数と有限体の世界(29)ー第 IV 部 素数の分解法則ー有限体(3)

前回, \( \mathbb{Z} / m \mathbb{Z} \) (\( m \) は正の有理整数)上に加法と乗法を定義しましたが, これらの演算は有理整数のときと同じ演算規則に従います. 今回の記事では, 抽象代数学を用いて, これらの演算規則について整理します. 私たちが扱うのは, ”可換環” と呼ばれる対象です.

換環

\( R \) を集合とし, \( R \) 上に 2 つの要素 \[ 0, \, 1 \in R \] が定められているとします(\( 0 = 1 \) であってもよい). また, \( R \) 上に2つの演算 \begin{align} + \,\, \colon \,\, & R \times R \longrightarrow R, \quad \left(a, \, b \right) \mapsto a + b, \\[0.5em] \cdot \,\,\, \colon \,\, & R \times R \longrightarrow R, \quad \left(a, \, b \right) \mapsto a \cdot b \end{align} が定義されているとします(\( a \cdot b \) は省略して \( a \, b \) と書くこともあります). 集合 \( R \) とその上に定義されたこれらの構造を合わせたもの \[ \left(R, \,\, +, \,\, \cdot, \,\, 0, \,\, 1 \right) \] に対して, 次の条件を考えます.

  • (A1) \( \quad \) \( a + b = b + a \).
  • (A2) \( \quad \) \( \left(a + b \right) + c = a + \left(b + c \right) \).
  • (A3) \( \quad \) \(a + 0 = a \).
  • (A4) \( \quad \) 任意の \( a \in R \) に対して, ある \( b \in R \) が存在して, \( a + b = 0 \).
  • (M1) \( \quad \) \( a \, b = b \, a \).
  • (M2) \( \quad \) \( \left(a \, b \right) \, c = a \, \left(b \, c \right) \).
  • (M3) \( \quad \) \(a \cdot 1 = a \).
  • (D) \( \phantom{1} \quad \) \( a \, \left(b + c \right) = a \, b + a \, c \).

((A1) は正確には,

「 任意の \( a \), \( b \in R \) に対して, \( a + b = b + a \). 」
ですが, 読みやすさのために省略して書きました. (A4) を除いて, 他も同様です.)

これらの条件がみたされるとき, \[ \left(R, \,\, +, \,\, \cdot, \,\, 0, \,\, 1 \right) \] を可換環といいます. 集合 \( R \) 上に定義された構造 \[ + , \quad \cdot , \quad 0 , \quad 1 \] を明示せず, 単に

「 \( R \) は可換環
ということもあります.

法に関する逆元

(A4)における \( b \) は一意的に定まります. なぜなら, そのような \( b_1 \), \( b_2 \) に対して, \[ b_1 = b_1 + 0 = b_1 + \left(a + b_2 \right) = \left(b_1 + a \right) + b_2 = 0 + b_2 = b_2 \] となるからです. この \( b \) のことを \(a \) の

”加法に関する逆元” あるいは ”加法逆元”
といい, \[ \text{『} \, -a \, \text{ 』} \] で表します.

集合 \( R \) に与えられた元 0 は
”零元”
と呼ばれます. \( R \) の任意の元に零元を掛けたものは, また零元になります. なぜなら, 任意の \( a \in R \) に対して, \[ a \, 0 + a \, 0 = a \, \left( 0 + 0 \right) = a \, 0 \] であり, この両辺に \( a \, 0 \) の加法逆元を加えると, \[ a \, 0 = 0 \] となるからです.
法に関する逆元
\(a \in R \) に対して, \[ a \, b = 1 \] をみたす元 \( b \in R \) は存在するとは限りませんが, 存在すれば, それはただ1つです(加法のときと同じようにして証明できます). このような \( b \) は \[ \text{『 } \, a^{-1} \, \text{』} \] と書かれ, \( a \) の
”乗法に関する逆元” あるいは ”乗法逆元”
と呼ばれます. 乗法逆元をもつ \( R \) の元は
"単元" または ”可逆(な)元”
と呼ばれます.
\( \mathbb{Z} / m \mathbb{Z} \)可換環

集合 \( \mathbb{Z} / m \mathbb{Z} \) に前回定義した構造を付加したもの \[ \left( \, \mathbb{Z} / m \mathbb{Z}, \,\, +, \,\, \cdot, \,\, [0], \,\, [1] \, \right) \] は可換環です. これが最初に

「 有理整数のときと同じ演算規則に従う 」
と述べたことの正確な意味です.

\( \mathbb{Z} / m \mathbb{Z} \) が可換環であることは容易に示せます. ここでは,

  • (D) \( \phantom{1} \quad \) \( [a] \, \left([b] + [c] \right) = [a] \, [b] + [a] \, [c] \quad \left([a], \, [b], \, [c] \in \mathbb{Z} / m \mathbb{Z} \right) \)
だけ確認してみましょう.

  1. 左辺を定義通り計算して, \[ [a] \, \left([b] + [c] \right) = [a \, ( b + c ) ]. \]
  2. 右辺を定義通り計算して, \[ [a] \, [b] + [b] \, [c] = [a \, b + a \, c]. \]
  3. 有理整数に対しての分配法則より, \[ a \, \left(b+c \right) = a \, b + a \, c. \] よって, 左辺と右辺は等しく, (D) が成り立つ. (証明終)